卒業おめでとうございます。これからは,社会にもより広く目を向けながら生きてください。

2022年3月23日水曜日,本学の卒業式が今年は午前と午後の2部制で執り行われます。

卒業生・修了生の皆様,おめでとうございます。学生たちを見守ってくださった地域の皆様にも感謝申し上げます。

このところは春休みで,また学生控室は利用制限されていることもあって,いつも以上に学生の姿が少なくなっていました。ところが今日は,スーツや羽織袴姿の学生たちを目にします。自転車置き場で立ち話をしていたり,花束をもらった学生の一人が,講義室の前で記念撮影をしていたり,キャンパスの並木道を背景に鮮やかな色合いの振袖姿の学生が自撮りしていたり。学生のいるキャンパスは,生き生きとしているように感じます。そして,学生がいるからこそ大学,という当たり前のことが妙に新鮮に感じられます。

当教室からも学部の卒業生が,教育現場,企業,大学院などなど,それぞれの道へと一歩踏み出していきます。4年前は,大学のキャンパスの中でも妙に浮いて見えていましたが,4年も経つと,すっかり溶け込んで見えます。「もっと心理学を学びたかった」と4年間を振り返っての感想を述べた学生がいました。確かに,4年間で教職科目を学び,教育実習に出向き,そして,心理学も学ぶとなるとまだまだ時間は足りないという実感はもっともです。けれど,この学び足りない気持ちは,これからの学びの後押しにもなりますから,ぜひ,卒業後は,自分で学びたいことをさらに学び続けてほしいと思っています。

それに,心は,心だけがぽつんと宙に浮いて存在しているわけでもありませんから,日々食べるものがあること,住む場所があること,何より社会全体が安定していることはとても重要なことだと考えられます。けれど,世界の状況を見ても,何より日本では7人に一人の子どもが貧困状態にあることを考えても,実はそれほど当たり前のことではないことが,より明らかになっている状況だと思います。小児科医で精神分析家のウィニコットは,心の内側(無意識)を重視する学問体系の中で,外的な環境の重要性も指摘しました。ウィニコットの生きた時代は戦争の最中の時期もあったことから,環境そのものが破壊されていて,人が生きる環境のことがよりいっそう重要であったことにもよるのだと思います。自然環境の問題も解消されないままですし,次世代を育てる人を育てる学部を卒業するわけですから,様々な側面における環境問題について考えることは,なおさら期待されることだと思います。

これからは,社会で生きる一人として,専門性をさらに深めるためにも学ぶことで,よりいっそう社会という外的な環境にも目を向けていってください。そして,ウィニコットが大切にしたのは,内と外だけではなく,より中間的な領域・空間です。「内と外と『その間』」と表現されますが,この中間領域も楽しみながら日々送ってください。私にとってこの中間領域にあるものの一つは映画をみることです。『猫は逃げた』,『この日々が凪いだら』,『中村屋酒店の兄弟』,『愛なのに』とタイトルを見ただけなのに,みたいと思っている映画が目白押しの3月。さて,どの映画からみることにしましょうか。

卒業生の皆さんのこれからも続く物語が,山あり谷あり,時には停滞があったとしても,最後は(そこそこの)ハッピーエンドであることを願っています。

ホームカミングデーって?

10月終わりに,大学のホームカミングデーが開催されました。昨年同様にオンラインでした。「ホームカミングデー」,あまり聞いたことのない言葉です。本学の卒業生・修了生の皆様,母校にお立ち寄りください,それに,よろしければ地域の皆様も,この機会に本学のことを知っていただければ幸いです,というイベントです。卒業生や修了生だけでなく,地域の皆様からも日頃からご支援,ご協力いただいていることへの感謝の気持ちをあらわすための企画でもあります。

当教室は,学部紹介の動画に教室紹介のスライドを作成して参加しました。この場を借りて,日頃よりご理解・ご支援いただいているOGOBの皆様,近隣地域他の皆様に感謝申し上げます。

ライブイベントは全て終了しておりますが,一部オンデマンド動画は,まだ試聴可能なものもございます(期間限定公開のため,すでに終わっている可能性もございますので,視聴できない場合は悪しからずご了承ください)。また,学内の様子を見いただくための「オリジナルパノラマ」も,ホームカミングーに合わせて公開されました。学部の一部の施設を,ぐるりと眺めることができます。よろしければ,以下のURLから,ぜひご覧ください。なお,このURLは11月末までのもので,2021年12月には変更されますので,変更後は本学HPから閲覧お願いします。

*オリジナルパノラマ:https://tourmkr.com/F14iPQOoeS/34822568p&5.08h&55.55t

このイベントの際,当コラムを読んでくださったOGの方から,最近更新されていないようなので,と心配のメッセージをいただきました。卒業生からの久しぶりのメッセージに元気のお裾分けをいただいて,今日はコラムを書いております。教室の近況をお知らせしますと,2021年3月末に教員1名が退職し,4名体制でやっております。かつては7名体制でしたので,時代の流れとはいえかなりの様変わりです。それでも,教室の自由な空気を引き継ぎ,所属する学生たちの気風も,これまでの教室の先輩たちの流れを汲んで,それぞれの関心を深めながら日々を送っております。コロナが落ち着きましたら,OGOBの皆様,ぜひお立ち寄りください。と言いながら,「近くまで伺いますので立ち寄っても?」とこのコラムを書いている最中にも連絡をもらったのですが,立ち寄りの連絡をもらうときに限って予定が入っていたり不在だったり・・・。在,不在をご確認の上お立ち寄りください,と言い直すことにします。とはいえ,これまで通りに,ふらりとOGOBが立ち寄ることのできる教室であることは,今もつながっております。

ところで,前回のコラムに書いた春本雄二郎監督の映画『由宇子の天秤』。先行試写会の後に劇場でも鑑賞しました。152分があっという間でした。「正しさとは?」がテーマの映画です。ドキュメタリー監督の女性が,自らの信念とさまざまな出来事との間で揺らぎながらも進んでいく物語です。主人公の由宇子は,こうありたい,こう進めたい,と思っていても次々と他者の意向や出来事に妨げられ,自分が思うようにドキュメンタリー作品を先へ進められません。最後は,どうなっていくのだろう,とハラハラする展開の映画です。これは,フロイトの発想を元にして示されている『精神分析の三段論法』からみても興味ある内容です。例えば,こうしたいと思い描いていることがある由宇子に(「イド」の力:本当は〜したい,という願望や欲望・欲求など),そうはさせてくれない放送局のプロデューサーや取材を受けてくれた人など他者の意向が働いて(「超自我」の働き:〜すべき,〜すべきではないと言われることから不安が生じて),結果的には思い通りに進まない(現実状況も踏まえた自我のありよう・折り合わせの結果として表出される私の言動),というエディプス三角関係の形としても読み取ることができます。由宇子が揺らぎながら,どこに辿り着くのかと思ってみているうちにあっという間にエンドロールでした。前作の『かぞくへ』同様,音楽なく流れていくエンドロールは,映画の余韻をさらに味わい深いものにしてくれました。近い場所での上映は一旦終わっていますが,11月中下旬以降,広島県や福岡県他の劇場での上映が予定されています。映画を見ると,抽象化されている臨床心理学の理論が,具体的な人のこころのありようとしてリアリティを持って,他人事ではなく自分自身のことでもあることとして理解できることもあります。それはさておき,冬にも映画1本いかがでしょうか。

映画1本観ることは

春の熊本復興映画祭で,ラストの数分だけ観た『由宇子の天秤』。(勝手な思い込みですが)ラストシーンだけでも春本雄二郎監督の作品だ!とよろこびが込み上げ,全編をいつ観ることができるかと待ちかねているところに,先日,下関市で先行試写会が開催されました。おかげで全編を観ることができました。春本監督の1作目,『かぞくへ』にも出演されていた梅田誠弘さん。今回は父親役で,ずい分と違う雰囲気だなあ,としみじみ見入ってしまいました。梅田さんの娘役を演じている河合優実さん。春本監督がYouTubeのトーク番組で,河合さんが他の作品にも出演されていると話されているのを聞いて,先に,『佐々木、イン、マイマイン』を配信で,ちょっとだけ出演されている『喜劇 愛妻物語』をたまたま映画館で観て,『由宇子の天秤』を観ることになりました。河合さんが,役によってまるで別人のように見えて,どうやって演じているのか,興味をひかれました。役者なのだから当然ですよ,台本も演出もキャスティングも違いますから,と言われればそれまでなのですが,それにしても,映画ごとの印象の違いに驚きます。さらに,昨日から始まった無料配信ドラマ(LINE),『上下関係』にも出演されています。映画ではありませんが,スマートフォンの縦画面で見るドラマで,今度はどんな役を演じられるのかと毎週の配信を楽しみにしているところです。

つらつらと書いてきましたが,映画1本観ることは,次の1本へのチケットを手にするようなものだと感じています。1本の作品が次の作品につながって,その作品に出ている役者の人たちが,他の作品ではどんな役を演じているのか,その役としてどんなしゃべり方をするのだろうかと気になって,さらに映画を観たくなります。そのおかげで,自分の趣味とは違う映画を観ることもできて,ちょっとだけ自分の趣味の空間が広がっていくことを楽しんでいます。

ところで,『由宇子の天秤』は,山口県内での上映はまだ決定していないようですが,今年の9月17日から渋谷のユーロスペースで公開され,近いところでは,広島の横川シネマや福岡のKBCシネマでは公開が予定されています。映画館のスクリーンで,もう一度観たい1本です。

*YouTubeのトーク番組:『若手国際映画監督たちが21時からゆるっと雑談』:春本雄二郎監督,まつむらしんご監督,藤元明緒監督の3人の映画監督が,映画についておしゃべりする番組。